しばらく雨の続くこの季節に、久しぶりの晴れ間がのぞき、小梅も自然と明るい気持ちになり、久しぶりにお稽古の帰り道、公園に立ち寄りました。青い空と明るい日差しが湖の水面をキラキラと照らし、夏が近付いていることを告げていました。
「そういえば、真さんをはじめてお見かけしたのも、この公園だったわ…。」
これまでの真さんの想い出を小梅は丁寧に思い出しました。公園で初めて会い、その後も列車や街中で、なんども偶然を重ね、少しずつ距離が近づいてきました。
「でも…」
不意に、小梅は顔を曇らせました。ある日、姉達が話していたあの噂を思い出したのです。真さんは雨宿りを一緒にした時に自身を「綾小路 真」と名乗りました。それは姉達が噂をしていた「綾小路 真」とほぼ同一人物であることを意味していました。お見合いをするという話を姉達もそれ以降話題にすることはありませんでしたし、小梅も聞くことはありませんでした。
これまで少しずつ真さんのことを知ることが出来て嬉しい反面、「このまま真さんのことは美しい想い出になって終わるのかもしれない」とも秘かに考えていました。小梅は湖畔のベンチに座り、うつろにそんなことを考えていると、
「小梅さん」
ふいに背後から声を掛ける人がいました。また聞きたいと願っていたその声に、小梅は幻聴なのかもしれないと思いながら振り返ると、そこには真がいたのです。それに真は偶然通りかかり気が付いたというよりも、小梅に向かって歩み寄ってきます。
「あ、綾小路さん…」
突然現われた真を前に、小梅はやっとのことで、それだけ言いました。
「いつか、こんな晴れた日にこの公園でお会いしましたよね。もしかしたら小梅さんがいるのではないかと思って。」
小梅は夢を見ているのかと思いました。小梅が一方的に抱いていた「会いたい」という気持ちを、真も同じく抱いていたのです。ぼう然とした小梅に真は続けました。
「小梅さん、私はまもなく進学のため遠方へ行ってしまいます。かんざしを拾ったあの日からあなたとお話してみたいと思っていたのですが、偶然お会いすることはあっても、なかなかお話できずに…。」
「綾小路さん、お見合いなさるのですよね…?」
小梅は自分の意思とは別に、ふいにそんなことが口をついて出てきました。まさかこんな事を言うつもりはなく、小梅自身が一番驚きました。
「…ご存知でしたか。」真はばつが悪そうな、困った顔をしました。
「実は、遠い親戚にあたる女性との縁談があったのですが、お断りいたしました。元々親同士が決めた話でしたし、相手も良い方なのですが、そのような感情を抱いていません。それよりも自分が今後どうすべきか、将来のことで悩んでいて…。そんな時にあなたに出会ったのです。」
小梅は依然立ち尽くしていました。
「これを」
真は小梅の手をとり何かを渡しました。見ると、それは小さな紙が結んである美しいかんざしでした。
「私の連絡先が書いてあります。私も小梅さんに手紙を書きます。」
「ありがとう、ございます…。」
小梅は胸の鼓動を抑えることが出来ず、紅潮した顔をうつむけたままやっとのことで言いました。
「突然、すみません…。」
真はひとしきり話し終えると、つられて顔を赤くして、うつむきました。しばらく二人は無言でしたが、小梅は勇気を出して顔をあげ、真の目を見て言いました。
「私、お手紙お書きします。」
見つめあった二人は全てが通じ合ったようでした。二人の間に将来の迷いや不安は無く、これからのお互いを想う、そんな温かな気持ちが通い合うかのようでした。
イラスト:CM「想いはじけて」篇(1981年)より
<<その5「雨宿り」
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